地域住民が主役!「シナリオ型防災ゲーム」で育む実践的な自助・共助
従来の防災訓練から一歩進んだアプローチ
地域における防災活動は、住民の安全を確保する上で極めて重要です。しかし、従来の防災訓練は、画一的な避難経路確認や消化器訓練に留まり、参加者が受動的になりがちであるという課題が指摘されてきました。訓練内容のマンネリ化は、住民の参加意欲低下を招き、実際に災害が発生した際の適切な行動に結びつきにくいという問題を生じさせます。
このような状況を打開し、住民一人ひとりが主体的に考え、行動できる力を養うためには、より実践的で、かつ参加者が楽しみながら学べる新しい訓練形式が求められます。「防災ボランティア・イノベーションズ」では、今回、地域の実情に合わせた「シナリオ型防災ゲーム」に焦点を当て、その導入方法と成功のポイントを解説いたします。
シナリオ型防災ゲームの概念とメリット
シナリオ型防災ゲームは、特定の地域や家庭に起こりうる災害状況を仮定し、参加者がその状況下でどのように判断し、行動するかを模擬体験する訓練手法です。参加者は、架空のシナリオに基づいて、具体的な情報収集、意思決定、そして行動選択を行います。
このアプローチの主なメリットは以下の通りです。
- 当事者意識の醸成: 参加者は自分自身や家族、地域が直面する可能性のある具体的な状況を体験するため、高い当事者意識を持って訓練に取り組むことができます。
- 実践的な判断力の向上: 災害時には限られた情報の中で迅速な判断が求められます。ゲームを通じて、複数の選択肢の中から最適な行動を検討し、その結果を学ぶことで、実践的な判断力を養います。
- 多様な視点の獲得: 参加者同士が意見を交わすことで、自分だけでは気づかなかった視点や解決策を発見することができます。これにより、地域全体の共助の精神が育まれます。
- 防災知識の定着: 知識のインプットだけでなく、アウトプットを伴う体験学習であるため、防災に関する知識やスキルがより深く定着します。
- コミュニティの活性化: ゲームを通じて住民同士が協力し、コミュニケーションを深めることで、平時からの地域コミュニティのつながりが強化されます。
具体的な活動事例:希望ヶ丘自治会の「わが家の避難計画」ゲーム
ここで、ある自治会が実施したシナリオ型防災ゲームの事例をご紹介します。希望ヶ丘自治会では、高齢化が進み、従来の座学中心の防災訓練では住民の参加が伸び悩んでいました。そこで、自治会防災部が中心となり、「わが家の避難計画」をテーマにしたシナリオ型防災ゲームを企画しました。
企画概要
- 目的: 住民が具体的な状況下での避難行動を模擬体験し、各自の「わが家の避難計画」を具体化すること。
- 対象: 自治会住民(小学生から高齢者まで幅広い世代が参加できるよう工夫)。
- シナリオ設定:
- 大規模地震発生後の「自宅待機」と「避難所への移動」の判断。
- 家族構成や健康状態(例: 高齢者がいる、小さな子供がいる、ペットがいるなど)を参加者自身に設定させる。
- インフラ途絶(停電、断水、通信障害)の状況を付加。
- 地域のハザードマップに基づき、自宅から避難所までの具体的な危険箇所や迂回路を提示。
成功のポイント
- 地域特性の徹底した反映: 希望ヶ丘自治会は河川に近く、一部地域で液状化の危険があるというハザードマップ情報をシナリオに織り込みました。これにより、参加者はよりリアルな危機感を持ち、当事者意識が高まりました。
- 「ゲームマスター」による進行: 各グループには進行役として「ゲームマスター」を配置。ゲームマスターは、参加者の発言を促し、災害時の状況変化を伝えるなど、ゲームを円滑に進める役割を担いました。特定の防災知識を問うのではなく、判断のプロセスを重視するよう誘導しました。
- 多世代参加の促進: 小学生にはイラスト入りのカードを用意し、避難時に持っていくべきものを考えるアクティビティを取り入れました。高齢者には、身体的な制約がある場合の避難経路や隣近所との連携について議論する機会を提供しました。
- 終了後の「振り返り」と情報共有: ゲーム終了後には、各グループでどのような判断をし、その結果どうなったかを全体で共有。防災専門家を招き、ゲーム中の判断の妥当性や、さらに改善できる点を具体的に解説してもらいました。これにより、参加者はより深い学びを得ることができました。
工夫点
- 簡易的な道具の活用: 大掛かりな設備は使わず、模造紙に地図を広げ、付箋を使って各々が考えた避難経路や危険箇所を書き込む形式を採用しました。これは、ITツールに不慣れな方でも参加しやすく、活発な意見交換を促しました。
- 選択肢カードの活用: 「自宅に留まる」「親戚の家へ移動する」「指定避難所へ行く」などの主要な選択肢をカード化し、参加者が選択するたびに、その選択によって生じる新たな状況をゲームマスターが提示しました。
- 地域住民を巻き込んだシナリオ作成: シナリオ作成には、自治会の防災部だけでなく、民生委員やPTA、消防団OBなど、様々な立場の住民が協力しました。これにより、多角的な視点から、地域の実情に即したリアルなシナリオが完成しました。
他地域への応用と展開のヒント
シナリオ型防災ゲームは、地域の特性や住民構成に合わせてカスタマイズすることで、多くの地域で応用可能です。
1. シナリオ作成のステップ
- 地域情報の収集: ハザードマップ、過去の災害履歴、地域のインフラ状況、人口構成(高齢者、子供、外国人住民など)を把握します。
- 目標設定: どのような防災意識を高めたいのか、どのような知識を身につけてほしいのか、具体的な目標を設定します(例: 家族間の連絡方法の確認、避難所までの安全な経路の確認など)。
- 登場人物と状況設定: 家族構成、季節、時間帯、天候、ライフラインの状況など、具体的な条件を設定します。
- 選択肢の提示と結果の分岐: 参加者が選択を行うポイントを設け、それぞれの選択がどのような結果を招くかを事前に用意しておきます。複数の選択肢と結果の分岐を用意することで、ゲームに深みが増します。
2. 必要な準備とツール
- シナリオと進行マニュアル: シナリオ本文、ゲームマスター用の進行マニュアル、状況変化カードなどを作成します。基本的なPC操作で作成できるWordやPDF形式の資料で十分です。
- 地図と模造紙: 地域地図を大きく印刷したものや、白地の模造紙、ホワイトボードなどを用意します。
- 筆記用具と付箋: 参加者の意見や選択肢を書き出すために使用します。
- 簡易的な小道具: 災害発生を知らせる音源(スマートフォンで再生)、停電を模擬する懐中電灯など、臨場感を高める小道具も有効です。
- テンプレート資料: シナリオ作成用のテンプレートや、進行マニュアルのひな形があれば、準備の負担を大幅に軽減できます。防災ボランティア・イノベーションズでは、今後、こうしたテンプレート資料の提供を予定していますので、ぜひご活用ください。
3. 費用感
シナリオ型防災ゲームは、大掛かりな設備投資が不要なため、非常に低コストで実施可能です。基本的な準備物は、印刷費、文房具代程度で、ほとんどの費用は実質無料、または数百円から数千円程度に抑えられます。
4. ITツールが苦手でも安心な工夫
ペルソナである佐藤健太様のような方にも導入しやすいよう、ITツールへの依存度を下げた工夫が可能です。例えば、シナリオの原案は手書きで作成し、自治会の若手メンバーや地域のPC得意なボランティアに清書を依頼する、あるいは、当サイトで提供されるような既存のテンプレートを活用し、テキストの変更のみで地域仕様に調整するなどが考えられます。進行も、PCプレゼンテーションに頼らず、ボードやカード、口頭での説明を中心に構成できます。
まとめ:地域防災力の向上とコミュニティの強化へ
シナリオ型防災ゲームは、単なる訓練を超え、住民一人ひとりが「自分ごと」として防災を捉え、具体的な行動を考える機会を提供します。これは、災害時における「自助」の意識を高めるとともに、住民同士の意見交換を通じて「共助」の精神を育むことに直結します。
この革新的なアプローチは、防災訓練のマンネリ化を打破し、地域の防災力を飛躍的に向上させる可能性を秘めています。継続的な実施と、多様なシナリオ開発を通じて、より強固で回復力のある地域コミュニティを築き、災害に強いまちづくりに貢献できることでしょう。ぜひ、貴地域の防災活動に、シナリオ型防災ゲームの導入をご検討ください。